民事信託とは? ~民事信託・家族信託の基本情報~
民事信託のデメリット
(1) 損益通算ができなくなるリスクがある
保有している全ての財産を一つの信託契約で信託する場合は問題はありませんが、財産の一部を信託する場合や、複数の信託契約で信託する場合は損益通算禁止の問題が出てきますので、注意が必要です。
損益通算とは?
所得税や住民税の課税対象になる個人の所得には10種類あります。異なる所得どうしで損失と所得を相殺するのが損益通算の制度です。
(2) 税務申告の手続きの手間が増える
資産の一部又は全部を信託財産とした場合、信託財産から暦年3万円以上の収入がある場合、受託者は翌年の1月31日までに、前年の信託財産の状況等を記載した「信託計算書」およびその合計表を税務署に提出しなければなりません。
税金についても注意!
受益者は課税されます。
信託の設定により、民法上では所有権の名義が受託者に移転しますが、この時点では贈与税はかかりません。
この時の受託者は、財産を管理・処分する権限だけしかなく、信託財産から生じる収益権は受益者にあり、税務的には受益者は所有者となります。ゆえに、委託者が税金を支払うべき、となります。
しかし、委託者が受益者ではない場合、受託者に相続税か贈与税が課税されます。遺言で信託を設定した場合は相続税が課税され、生前の信託設定では贈与税が課税されます。
(3) 民事信託でもできないことがある
遺言でなければできないことがあります。
具体例としては、「遺留分減殺対象財産の順序の指定」があげられます。
また、相続発生時の財産を全て信託契約で網羅することは難しいため、信託財産には記載していない財産について、その財産の承継先を指定したい時は、信託契約とは別に遺言書作成しておくことが必要です。
遺言でしかできないこと
遺言でしかできないことには、下記の8つが挙げられます。
・法定相続分と異なる相続分の指定、または指定の委託
・遺産分割方法の指定または指定の委託
・特別受益者のもち戻しの免除
・遺産分割の禁止(5年以内の期間)
・遺言執行者の指定、または指定の委託
・遺留分減殺方法の指定
・未成年者の後見人・後見監督人の指定
・共同相続人の担保責任の指定
その他の例として、「身上監護権」の問題があります。
信託の受託者は、「財産の管理権」はありますが、成年後見人と違い「身上監護権」がありません。よって「受託者」の立場で本人の入院手続きや施設入所手続きをすることはできません。また、その他に本人に変わって遺産分割協議を行うこともできません。もし身上監護権が必要な場合は、成年後見制度を利用して、後見人に身上監護権を行使してもらわなければなりません。
ただ通常は、家族の立場で入院・入所手続きをすることができることが多いでしょうから、実質的には家族である受託者が身上監護の面でも対応できるケースは多いでしょう。