民事信託とは? ~民事信託・家族信託の基本情報~
民事信託とその他の制度との違い
民事信託も成年後見も、認知症などの対策としての財産管理の制度です。
ただ、成年後見に比べ、民事信託の方がより本人の意向を長期にわたり実現可能な制度になります。
成年後見制度と民事信託の比較をご覧ください。
● 成年後見制度とは
知的障がい、精神障がい、認知症などの理由で判断能力が十分でない方は財産の管理や権利の行使、契約を行うことができないため、その方を保護・支援する制度です。例えば、
・不動産の預貯金などの管理
・介護サービスや施設への入所に関する契約
・遺産分割の協議
・その他重要な契約(不動産の売買等)
などの契約を自分でおこなうことが難しい場合、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人の代わりに契約などの法律行為を行います。また、自分ではよく判断ができずに悪徳商法の被害に遭い、自分に不利益な契約を結んでしまった場合にこの制度を利用すると、成年後見人が不利益な法律行為を取り消すことができます。
家庭裁判所が選任した成年後見人は、基本的に本人が亡くなるまで辞めることができません。また、成年後見人が弁護士、司法書士などの専門職の場合は、本人が亡くなるまで成年後見人に対し報酬を支払う必要があります。
● 民事信託では...
上記の成年後見との大きな違いは、委託者が認知症等を発症した後も信託契約や効力については継続される点にあります。民事信託が認知症対策をして有効であるといわれるのはこのためです。成年後見制度は、弱者である【本人の保護】が一番の目的でした。しかし、民事信託は、本人の保護より「本人の意思の実現の保護」が最優先となります。
また成年後見制度では専門職が後見人に就いた場合は報酬を支払わなければなりません。また、民事信託は、成年後見制度とは違い、家庭裁判所への毎月の届け出や報告は必要ないため、手間やランニングコストがかからない点にも特徴があります。成年後見人は家庭裁判所が選任しますが、民事信託は、本人が信頼できる人を受託者に選ぶ事ができる点も大きいでしょう。
ただし、民事信託は成年後見制度とは違い、財産管理の部分しかありませんので、受託者が受益者の変わりに遺産分割協議をしたり、施設への入所に関する契約を結んだり、悪徳商法の契約を取り消したりすることはできません。
● 民事信託と成年後見制度の違い
民事信託 | 成年後見制度 任意後見 | 成年後見制度 法定後見 | |
---|---|---|---|
存続期間 | 自由に設定 (信託法に最長期間の定めあり) |
審判~本人または後見人の死亡 | 審判~本人の死亡 |
権限 | 自由に設定 (財産管理権のみ、身上監護権なし) |
・財産管理 ・契約で定めた範囲の法律行為の代理(同意権・取消権なし) ・身上監護 |
・財産管理 ・法律行為の代理(同意・取消) ・身上監護 |
財産の積極運用・処分 | 自由に権限を設定 | 任意後見契約の内容による | 原則不可 |
財産の範囲 | 信託する財産の範囲を設定できる | 全財産が対象 | 全財産が対象 |
財産の所有権者 | 受託者 | 被後見人(本人) | 被後見人(本人) |
第三者による詐欺 | 信託財産を本人が所有しないので、被害が及ばない。 |
被後見人が所有している財産に被害が及ぶおそれがある。 詐欺にあった場合、後見人には取消権はない。 |
被後見人が所有している財産に被害が及ぶおそれがある。 詐欺ではなくても、被後見人が第三者と結んだ契約を取消すことができる。 |
遺産相続 | 委託者の死亡では信託財産に属する預金口座の凍結はされない。 信託財産の承継を信託契約で定めることができる。 |
被後見人の死亡により後見業務が終了するため、遺産相続手続きは業務範囲外となる。 | 被後見人の死亡により後見業務が終了するため、遺産相続手続きは業務範囲外となる。 |
監督 | 任意で信託関係人を指定することができる。 | 任意後見監督人を家庭裁判所が選任(必須) | 家庭裁判所または、家庭裁判所が選任した後見監督人(必須) |
財産管理報酬 | 自由に設定(設定がなければ無報酬) | 後見契約で自由に設定(設定がなければ無報酬) 後見監督人報酬が発生する |
家庭裁判所が財産の状況や業務内容に基づき金額決定(月額3万円~5万円程度) |
報酬以外の費用 | なし。信託監督人を置いた場合は、監督人報酬(金額は自由)。 | 任意後見監督人報酬(月額2万円~3万円程度) | 後見監督人が就く場合は、その報酬(月額2万円~3万円程度) |